
マーケティングの基本的な用語の一つに「マーケットイン」と「プロダクトアウト」という考え方があります。
簡単に言えば、消費者目線で考えるか、企業(自分)目線で考えるかという違いです。
結論は、どちらが良いかではなく、融合して考える事が大切です。
その為には、それぞれの視点のメリット・デメリットをしっかり理解する事が大切です。
今回は、そんな二つについてご紹介していきます。
プロダクトアウトとは?
企業(自分)視点で、作りたいものを作って提供したり、行いたいサービスを提供する考え方です。
- ミュージシャンが、自分の好きだと思う音楽を行う
- 絵が得意な人が、絵を描いて生きていく。
と言ったように、自分の得意なもの・好きなものを提供していく事が多いです。
プロダクトアウトの例:iPhone
iPhoneはプロダクトアウトの代表例としてたびたび紹介されます。
多くの人々は、スマートフォンを欲しい!とは思っていなかったと思います。
その為、登場した時は唯一無二の商品で、スマートフォン=iPhoneというイメージも強くなりました。
厳密にいえば、iPhoneは世の中の人が求めるものだと思っていたかと思います。
リンゴが欲しいから、リンゴを売るようなものではなく、スティーブジョブズ氏の先見の明による、「売れるだろう」という考えから登場した商品と言えます。
マーケットインとは?
消費者が望むもの、求めている物、課題に基づいた商品・サービスを提供する考え方です。
- 高齢者の方が安心して暮らせるような介護施設
- 家事代行など、顧客が省きたい行動を代行するサービス
等が当てはまります。
マーケットインの例:無印良品(IDEA PARK)
無印良品には、IDEA PARKというサイトがあります。
こちらは、顧客からの声を吸い上げて、商品化するというものです。
顧客が、こんな商品が欲しい!こんな課題がある!といったアイデアから、実際に商品化までしてしまうというものです。
まさに、消費者の声を吸い上げたビジネスの代表例と言えるでしょう。
プロダクトアウト、マーケットインのメリット・デメリット
プロダクトアウトのメリット
イノベーションが起きやすい
プロダクトアウトの最大のメリットは、イノベーションが起きやすいという事です。
iPhoneも厳密には、顧客が求めるだろう・絶対求められるものだろうと、考えた上での開発だったと思います。
同じくミュージシャンも、絵が得意な人も、自分が生み出すものが絶対価値のあるものだと自信・理解があるから行えます。
これらは、厳密には顧客のまだ顕在化していない、意識もしていないニーズを汲み取った商品開発と言えます。
そのため、生み出される商品は、今までになかった新たな価値となり、世の中を変えるような場合もあります。
例えば、インターネットや、パソコンなどは江戸時代に欲しい!と思った人はいないでしょう。
しかし、江戸時代に登場していれば、今と同じように広まったのではないでしょうか。
プロダクトアウトは、顧客の見えないニーズを生み出し、イノベーションに繋がります。
自分の強みを活かせる
プロダクトアウトは、自分の強みを活かす事が基本です。
自分の強みという事は、相対的に見て強みがあるという事です。
マーケットインの考え方で、得意ではないけど顧客が望んでいるから行うという企業があるとしたら、プロダクトアウトの考え方の方が有利と言えます。
ビジネスは、たいてい何かしらの競合が現れます。競合に打ち勝つためには、アイデアだけではなく、他者に勝つための強みが重要です。
コアコンピタンス経営という言葉もあり、1眼レフなどカメラを製造する企業は、得意なレンズ製造などの軸を活かした、医療用レンズ・虫眼鏡などレンズを使うものなどの事業も展開していきます。
強みを活かした経営こそ、競合に勝てる大きな要因になります。
他人の眼を気にせず、継続しやすくなる
好きこそものの上手慣れ、という言葉がある通り、自分たちが作りたい・届けたいと信念をもって行う商品・サービスは、簡単には諦めず、逆境を乗り越えて成功していく可能性が高くなります。
新しい事を始める時のあるあるとして、自分が心から好きなもの・上手くなりたいものではないと、簡単にあきらめてしまうという事はないでしょうか。
新規事業など、ビジネスにおいても、成功するかしないかの大きな要因に「簡単にあきらめない事」があげられます。
例えば、ブログを運営するならまずは100記事書こうという考え方があります。
ほとんどの人が、100記事書けずに挫折してしまいます。100記事以上かけた人が、収益化を達成したり、成功しやすくなります。
これは、「自分が心から作りたい・届けたい・或いは稼ぎたい」と思うからではないでしょうか。
プロダクトアウトのデメリット
顧客が全く求めていない商品・サービスが出来上がる場合がある
ミュージシャンなど、アーティストにありがちなもので、自分たちが最高の音楽を届けていると信じているが、一般の人には全く共感されないというケースです。
プロダクトアウトは、自分が信じたもの・作りたいものを提供する考え方ですが、行き過ぎると、誰も望んでいない商品を作ってしまう事になります。
その場合は残念ながら、資源の無駄使いと言えてしまいます。
成功しない場合の損失が大きくなる
iPhoneも結果論として、ここまで売れたので成功例と言えます。
しかし、売れていないとしたら開発費用全てが損失となります。
映画やゲームは、プロダクトアウトの例で、1つの作品を作っても物凄く売れる場合と、まったく売れない場合があります。
まったく売れない場合は、多額な損失となります。
そのため、映画会社・ゲーム会社のようなクリエイティブ企業は、内部留保(企業の貯金)を多く蓄えて、失敗しても継続して新たな作品を生み出せるようにしています。
マーケットインのメリット
0から1という最初の収益化がしやすい
マーケットインは、事前に顧客が見えています。そのため、早期の収益化を行いやすくなります。
新規事業を立ち上げる時に、一番大変なことは、1円でも稼ぎ始める事です。
車を押して動かすときは、動いている状態からスピードを上げるより、最初に動かし始める時が一番大変だと思います。ビジネスもまさにこの例に当てはまります。
マーケットインは、この大変な部分を少しでも楽にしてくれる考え方です。
マーケティングがしやすい
マーケティングでは、その商品・サービスの魅力を、しっかりユーザーに伝えて購入してもらう事が目的です。
どうすれば、ユーザーが欲しいと思ってもらえるか、どんな文章が良いのか思考錯誤します。
しかし、マーケットインで開発した商品は、ユーザーの要望・課題からきている為、「○○の手間がいらなくなる商品です!」のように、そのまま利点を伝えるだけで効果が出やすくなります。
そのため、マーケティングがしやすくなります。
プロダクトアウトのiPodなどは、「1000曲をポケットに」といった絶妙な訴求で、ヒットしましたが、「音質が悪い」というデメリットがあります。 しかし、訴求方法が間違っていたら、ここまでヒットしなかったかも?しれません。
作るべき商品・サービスの完成形が見えやすい
商品を作るときのゴールはなんでしょうか。
iPodも、曲数を多くしようとすれば際限がありません。
ほとんどの商品・サービスは、完成度を高めようとすると際限がありません。
そのため、必要以上の機能・必要以上の性能開発に走ってしまう可能性があります。
これは、利益を悪化させる要因になります。
マーケットインの場合は、「背中を掻ける器具が欲しい!」という要望があれば、強度などはあれ、「背中を掻ける器具」であれば良いのです。そのため、ゴールが見えやすくなります。
マーケットインのデメリット
調査が間違っていたら台無しになる
マーケットインは顧客視点を元に、商品開発をします。
しかし、顧客が誰であるのか、顧客が本当に望んでいるのかを知るのは非常に難しい問題です。
そのため、調査をしていく必要があります。
この調査が間違っていると、計画が全部狂い台無しとなってしまいます。
顧客の言いなりになる可能性がある
顧客の意見と言っても、1人1人異なり、さまざまな意見があります。
すべてを聞き入れて、改善していこうとすると、その商品・サービスの本質からずれてしまったり、結局よくわからないものになってしまう可能性があります。
飲食店などで、顧客が作ってほしいと言われた料理をどんどんメニューに入れてしまうようなケースがあります。
本来、決まった食材を流用してメニューを増やしていく事が重要です。
食材を流用出来ないメニューが増えてしまうと、原価率が高まり経営的な効率が下がります。
また、メニューが増えすぎると、1つ1つの味の追及が出来ず顧客満足度の低下を招いてしまう可能性もあります。 顧客の言いなりになりすぎるのは危険です。
独自性、革新性が得られず、汎用品化しやすい
顧客が求めているというものは、顕在化したニーズと呼ばれます。
みんなが求めている物は、みんなが作り始めて提供していきます。
コロナウイルス感染症での、マスクは代表的な例です。
みんなが欲しいと思う為、少しでも安い物に流れる傾向にあります。
そのため、個人レベルでもマスクを作り始めています。
価格破壊が進み利益にならないビジネスになります。
※マスクの場合は元から汎用品ですが・・・
マーケットインとプロダクトアウトを上手に両立する事が大切
本来ビジネスは、自分たちが作りたい・望むものであり、それがマーケットに浸透するか調査を進めて、小さく始めていくという事が大切です。
そこには、プロダクトアウトという考え方と、マーケットインという考え方を両立させています。
今回、マーケットインの例・プロダクトアウトの例を取り上げましたが、厳密にはプロダクトアウトの要素が強い例、マーケットインの要素が強い例と言ったものです。
業界によって、マーケットインの要素を強くした方が良い物や、プロダクトアウトの要素を強くした方が良い物があります。
それぞれの、メリット・デメリットを理解し、自分の事業では、顧客に喜んでもらい、収益化できるのかを考えて活用してみてください。